敬虔深い神父の子と、癖の強いマダム
とある宗教の家庭で生まれた亜理は、18歳になった時の試練を父から課された。神父の見習いとして一週間、教会で泊まり込みで過ごしてほしいものだった。そこで、”宗教的”な人物と会うが、かなりの癖の強い人物だった。本物の信仰とは、疑いを乗り越えてこそだが、その過程は様々である。その彼の日記にはこんなことが書かれていた。
11月14日、今日の懺悔。
教会で多田さんと初対面。
今日は、昨日話していた多田さんのことで、反省がありました。というのも、彼女のメールを見れば薄うく感じ取れるのですが、スピリチュアルなところがあります。しかもこれは悪いスピリチュアルです。ところどころ、語尾が変なのです。っ、のところを、ぅ、にしていたり、ラインのホーム画面が変顔でひょっとこみたいだし、少し怖いなと思いました。この宗教って、やっぱり狂人の溜まり場です。最初はそう思ってしまった僕をお許しください神様!
最初は普通の悩み相談でした。教会には、話せる人がいないと言う娘さんがいるらしいのです。
その人とぜひ話してほしいと言われました。
立場的に僕とは話しやすいのでしょう。年も近くて、今年で二十歳だそうです。でも、多田さん、教会ではなく外で話そうとするし…犬の散歩をしないといけないから、教会で話せないなんて、ちょっとおかしいなって最初は思いました。僕はどちらかといえば、教会で、神様がいるところでお話ししたかったんです。自分も間違えてしまってはだめですから。神の言葉に反した棘のある言葉で、もし迷わせてしまったのなら、大変ですから、僕は神経質になってしまうんです。
彼女のことを、少し怖いと思った僕を許してください。神様。どちらかといえばおかしいなと思ってしまったんです。教会の外側で何かをするのは、外れているでしょう?そんな感じがしませんか?こういう真剣なことって、人生の転機って、相応の場所で準備するべきだと思うんですよね。で、心配して、僕、朝起きて、そのことに気づいて、次の日の夜中も飛び起きてしまったんです。あぁ、やってしまったなと。なんであの時もっと別の案を用意しなかったのだろう!体よく断ればよかった!
もう、眠れなくなっちゃって、祈りの前の朝食の食堂で、多田さんに会えないかと思ってウロウロしていたんです。そしたら、太田さんがあの元気な挨拶が背中からしたので、びっくりしましたよ!
「よぅ!」って敬礼しだして!
やっぱり、っがぅになってる!
多田さん!もう、変な人!
危うく叫びそうになっちゃいました。
けど、よかったです。
僕は、この食堂で、洗いざらい多田さんと、たまたま来ていた修道院の杉浦さんとそのさっきの心配事をお話しました。僕、たまらなくなって、本人の前で心配事を話しました。嘘はいけませんから!最初はとっても心配で仕方なかったけど、僕もやたらと神妙な面持ちになっちゃって、僕の不安ごとが伝わっちゃったみたいです。でも、お話ししました。
そしたら、みんな快く大丈夫だといってくれて、僕、嬉しかったです。みんな、結構まともな内容を話してくれました。多田さんは、僕の話を聞いている時、ひょっとこみたいな顔して横向いてましたけど…なんでか知らないけど、おそらく癖なんでしょうね、きっと。ちなみにここでいう、僕にとってのまともというのは、周りの意見を汲み取れること人のことです。
様々な神性に合わせた人ととの付き合い方があると、多田さんがいっていて、僕は救われました。多田さんはこんなことを言ってました。神様。
「勧誘ばっかりだと、やっぱり変な人だよね!40代ぐらいのおばさんってそれに気づいていないから!でね、ゎたしたちは、よくカラオケなんかに誘うのにょ、何歌わせるのって、私65歳で、YOASOBI歌うの、65歳でYOASOBIはやんないわよ?もう、他のおばさんたちなんて誰も話し合わないんですから。でも、もう年になると、もう寝れないでしょ?もうHYAOKIばかりになっちゃって、困っちゃうわよ!それで息子のテルちゃんがね!もうちょっと反抗期だから、ババァの癖して、何がYOASOBIだ!気色悪りぃ!って言うのにょ。ほほん!でね、あ、私何を言いたいか忘れちゃった!ほほん。」
それで多田さん、今度は困ったような泣き顔で
またひょっとこ顔をするんです!でも目は死んでいるんですよ。不思議な人ですよね。
僕だけじゃなかったし、僕の悩みなんか、よくある、あるあるだったことにもっと早く気づいていたら!
今日は本当にいい日です。
僕はいっつもいいことがあると、その瞬間にいい日だと決めつけてしまうので、ここは、僕のダメなところですね!でも、いい事があったのなら、いい日だといってもいいじゃありませんか。3分ぐらいの感動かもしれませんが、ちょっとしたことでも、感動するものですよ…
靴が揃っていたり、朝ごはんが思いのほか美味しかったとか、そんなことなんです。
今日、悩みを打ち明けられたのは、もっと大きい感動でした。ありがとうございます!
もう、ほんとに誰に向かってお礼を言うんでしょうね、誰かは全く知らないけど、ありがとうございますって言いたくなるんです!
11月15日
ちょっと待ってください!多田さん!
全然話が違います!公園で明日外で犬の散歩をしなければいけないからって、修行中の僕を連れ出すってどうかしています!
僕はあなたの娘さんが少し病んでいて、教団のことが不審になっているから、話相手が欲しいからってことで、仕方なく伝道の意味もこめて
行ったのに、なんですか、これ!
私はてっきり、娘さんが犬が好きで、精舎にも行きたくない理由があって、それで場所が公園だと決まったはずなのに、
娘さん、そんなにワンちゃん好きじゃないですか!というか、多田さんだけ楽しんでいるじゃないですか!しかも多田さん、全身ピンクの服装だし、ぼく、行ったとき後悔しました。もう遠目からでも、多田さんだなってわかりました。
落ち葉の積もりはじめた寒い秋の公園に、ピンクは強すぎるんです。
そして、昔の僕なら、それこそ絶望していたに違いありません。だって、自分の教団の人がこんな人ばっかりだったら、恥辱です…。
僕って強い敵がいることよりも、味方がどうしようもない時が、一番絶望するんです。
だって、友達がピンク色をしていて、頭悪そうなラインのプロフィール欄は、恥辱です!絶望なんです!
いつのまにか、リードが絡まって、ワンちゃん死にそうになっているし、娘さんは寒いから車で待っているって動かないし、ついにはあんたが散歩しな!っていうから、あぁもう神様にお願いするかどうかも恥ずかしいくらいにくだらなくて、どうしましょう。とりあえず一周するついでだし、仕方ないから、娘さんと一緒に散歩をしました。私は寒いから、車いるわって、あなたがよくいえましたね!
できるだけ多田さんから離れるように…。
それで僕は遊歩道を二人で歩きました。
とりあえず僕は娘さんに趣味の本を渡しました。少し小説は変わりものかもしれないが、きっと気に入ってくれるはずです。名前は、めんりちゃんというそうです。(変な名前!)
「本好きだっていうから、少し変わったやつ持ってきたんだ。」
あぁ、ありがとうございます…。
なんかすみません。母が…。て、心配そうにめんりちゃん呟いてました!